2013年2月21日木曜日

Vol.20 「この惑わせる棚」&「輪の森」

日時 2013.2.21  
展示タイトル(期間):この惑わせる棚 (2013.2.9-24)
展示作家:ニコラス・バスティン
展示タイトル(期間):輪の森(2013.2.21-3.3)  
展示作家:玉木直子
参加者:展示作家、村田達彦・弘子、エリック・シレ(レジデンス作家)、マーテ・キスリング、ヴィヴィアン、池田哲、他多数  
進行・通訳:進藤詩子   


「この惑わせる棚」 ニコラス・バスティン

「輪の森」玉木直子

2013年2月2日土曜日

vol.19 「かげりと余韻」

日時:2013.2.2
展示タイトル(期間):かげりと余韻 (2013.1.17 - 2.3)
展示作家:池ケ谷務
参加者:村田達彦弘子、エリックシレ(レジデンス作家)、ニコラスバスティン(レジデンス作家)、作家友人、他
進行:進藤詩子
記録:椛田有理



今回はオープニング時に作家によるフロアートークを行ったため、参加者が自由に感想を述べ合う談話形式での進行となった。

 弘子:鉄という、硬い、重い、黒いといったイメージのある身近な素材が実に軽やかに造り込まれている。過去の作品は重厚さの印象を受けるが、どのようにして変遷したのか。
池ヶ谷:かつては鉄のそうした重厚さを用いたが、今回鉄というものを塊としてではなく、状景を表象するための素材として選択している。また鉄という素材は扱い易い素材でもあるので選択しやすかった。
弘子:線材を扱うのは初めてか。
池ヶ谷:メッシュ素材ならば扱ったことはあるが、確かに線材は今回が初めて。線材の扱いは、水墨画でいう「ぼかし」を入れる感覚で用いている。線材というものは固体的ではなく動的な素材で、それが今回の表現には好ましいものだった。
エリック:風景の中に佇んでいるかのような感覚を覚える。風の中という印象だ。作品中に採用されている楕円などの具体的なフォルムの由来など、興味ある。レントゲン的な(注:CTスキャンかMRIでは?)「輪切りの断層」のようなイメージにも見える。フレームが主張する力強さに対し、線材の細やかさはドローイングに通じるものがあるだろう。
池ヶ谷:楕円のフォルムは、それぞれ向きを変えて配置する構成により、動的なイメージをもたせている。また、強度をもたせるという構造上の役割もある。また線材については地震対策という理由からのアプローチだったが、実際まさに「空間へドローイング」する感覚で制作した。作品タイトルにある「遠い音」というタイトルにもあるように、音を介した遠い空間的な広がりが作品イメージにある。風の中という状景を想起したというのは狙いに近い。
ニック:重厚なイメージを持つ鉄を用いて軽やかさを表現している点が面白い。ドローイングと彫刻の関連性も興味深い。片目を閉じて平面的に眺めれば、まさに空間をドローイングしている。制作のプロセスは、素材の制約からどのようにして生まれるのだろうか。
池ヶ谷:軽やかさを表現する最小限の構造を意識している。また、視界を塞がない抜けた空間を確保することもまた重視している。
エリック:見ていて思ったが、地球の大陸プレートをくりぬき、台座の上に乗せ、その上にウサギがいる、というようにも見える。
池ヶ谷:そうしたイメージはなかったが、目線の高さを自分を基準として設定しているから人により見え方は異なるだろう。(Elicの背が高いことに対して)
作家友人:彫刻作品の鑑賞経験はあまりないためか、素材そのものがもつ表情を新鮮に感じた。
達彦:展示の照明が自分には明るすぎるように思う。暗くしたほうがより軽やかに見えるのではないか。(→実際に暗くしてみる)
達彦:意外と暗いほうが重たい印象だ。
弘子:照明を暗くすると「面」が強調され音楽的な軽やかな印象から構成的な硬い印象になるように思う。
進藤:明るい照明のほうがコントラストが際立ってグラフィカルな印象となり軽やかに見える。
達彦:照明といえば照明器の配置によって落ちる影の印象も変わるだろう。
進藤:照明も含めて展示の構成はどのように決定されるのか。
池ヶ谷:会場がL字型であるなど、ここはなかなかスリルのある空間だと思っている。搬入の段になって変更した配置もある。会場に来て、展示を触ってまた浮かぶアイディアもあった。たとえば、吊っている作品が実際に動いていても面白かっただろう。
エリック:動くというのは興味深い。「遠い音」というタイトルにあわせて「エコー」のように影もまた遅れて動いたら面白いのでは?視覚的なエコー、きっと面白いだろう。
椛田:有機的なフォルムと思って眺めていたが、考えてみれば自然に溢れる有機的と言われ得るフォルムはひどく合理的すぎて、このフリーハンドの自由さは人の手ならではなのだろう。

 
記録後記
重厚で固体的な鉄という素材を、空間的な広がりや音楽的な軽やかさといったイメージへと昇華させる点への注目が高く、軽やかさへの追求を楽しむ作家像にも関心が集まる。時折さしはさまれるElicの着想・発想も場を沸かせた。経験豊かな作家ならではの軽やかさを感じさせるセッションだった。